過時、過節

毛舜筠、謝君豪、呂爵安、談善言、袁澧林、梁祖堯 曾慶宏:監督 2022年

8年前、エンジニアだった陳旭真(謝君豪)は失業し、妻の玲(毛舜筠)から早く再就職してくれないとマンションのローンが払えないと口うるさく言われていた。息子・陽(呂爵安)は母の味方、父には少なからず反感を持っていた。娘の琪(談善言)は家族のゴタゴタは聞こえないふりしてスルー。旭真は寡黙で妻とも子供達ともうまくコミニュケーションが取れていない。冬至の日、一家は郊外に住む玲の母の元で冬至の晩餐を過ごすはずだったが、玲の母が息子(玲の弟)・明(梁祖堯)が家の金を盗んだと疑ったことに端を発して、旭真と玲が刃物を持ち出すほどの大げんかに発展してしまう。さらに旭真は阻止した陽にも大声をあげてしまう。陽はその日から家を出てしまった。

8年後、旭真はタクシー運転手として、玲は父子家庭の家のハウスキーパーとして働いていた。陽はゲームデザイナーになっていたが、あの日以来一度も家には帰っていなかった。8年前窃盗を疑われた明は、イギリスでコックになっており、8年ぶりに香港へ戻ってくるという。母は年老いており、8年前のことを悔いて、なんとしても息子に会いたいと願っていた。

旅行前から今回最も見るべき映画と言われていたので、QRコードが藍になったらすぐに観ようと思っていた映画。期待通り。今回観た映画で最もよかった。イライラしている毛舜筠もいいのだが、何といっても謝君豪が素晴らしい。まずもう立ち姿からして少々情けない冴えないオヤジそのもの。舞台&映画《南海十三郎》などでは大量のセリフも立板に水の如くこなす人が、この役ではセリフは本当に少なく、かつゆっくりだ。それなのにこの情けない父親の感情を余すところなく表現しているのが素晴らしい。《明日戰記》のどこに出ているのか分からない役とは大違い。一度だけ感情が大爆発する場面ももちろん言う事なし。

さらに、なかなか父を許せない頑固な息子、少々不思議ちゃんっぽい娘のそれぞれのキャラクターを表現するエピソードもよくできている。玲がハウスキーパーをしている家の子供とその父親とのエピソードも玲の孤独な心を表していて切なくなる。あらゆる場面が丁寧に作られており、細かい感情の機敏が観るものに自然と伝わってくる。さらに従姉妹・悦(袁澧林)の存在が、このバラバラになりそうな家族を繋ぎ止めてくれる役割にもなっているのもよく考えられている。終わり方もいい。よく練られた脚本なんだろうと思う。

2022.11.25@百老匯電影中心