暴雪將至(迫り来る嵐)

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段奕宏(ドアン・イーホン)、江一燕(ジャン・イーイェン)、杜源、鄭偉 
董越(ドン・ユエ):監督 2017年

1997年、工場の保安部で警備員をしている余国偉(段奕宏)は、工場では名探偵と言われている。ある日工場の近くで女性の連続殺人事件が起きる。余は刑事気取りで殺人事件を解決をしようとしていく。

雨が降り続く日々。暗い画面。とにかく重苦しく鬱陶しい。殺人事件に執着しどんどんとのめり込んでいく余。物語がどんどん狂気を孕んで行き、とんでもない結末がやってくる。

(ネタバレあり)最後に今は操業していない元の職場である工場を訪ねた余が、かつて自分は表彰されたことがあると話すと、唯一残っていた管理人らしき人物が、保安部は一度も表彰されたことはないという。それさえも彼の妄想だったのかもしれないと思わせるところが一番怖かった。

2019.01.19@新宿武蔵野館

朝花夕拾・芳華絕代

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郭羨妮(ソニア・コック)、胡杏兒(ミョーリー・ウー)、林徳信(アレックス・ラム)、黃榮杰(パリス・ウォン)、方惠盈(ユキ・フォン) 
高志森(クリフトン・コー)・梁柏豪(パコ・リョン):監督 2018年 

(ネタバレの可能性あり) 2003年に亡くなった梅艷芳(アニタ・ムイ)の遺品は10年後の2013年、オークションに出されることになり、価値のあるものとそれ以外に分けられ、価値がないとみなされたものはゴミとして捨てられる運命に。それを知ったアニタの熱心なファンたちはゴミとして出されたものを回収しに行った。ゴミの中にはファンからのプレゼントが入っていた。アニタはファンからのプレゼントを捨てることなどなく大事に保管していたのだ。ファンたちは回収した品を贈った本人に返そうとしていた。

アーティストとしてのアニタの成功や功績を讃えるのではなく、ファンの姿を通してアニタを浮き彫りにしていく。

西城秀樹ファンとして知り合ったアニタが有名になる前からの友人でファン、アニタから勇気をもらい引っ込み思案から自らに自信を持てるようになる女性、撮影が終わる深夜までアニタを待つ女子学生、アニタのあきらめない性格に感化される教師、アニタ奨学金で音楽への夢を継続できることになったギタリストの5つの物語。実話を基にしている。

上映後に登場した高志森は、マスコミでは取り上げられることのほとんどなかったアニタの姿を描いたと話している。興味深かかったのか、西城秀樹ファンとして知り合ったAmy(胡杏兒)とアニタの関係。アニタはいつまでもAmyとは普通の友達として付き合っていきたかったのだろうがAmyはというと、スターとなったアニタは自分とは違う世界の住人だという思いが強かったのだろう、こんなところに訪ねてきてはいけないと言ったりして、最後にはアニタを拒絶するような態度を取ってしまう。Amyは後にそのことに涙することになってしまうのだった。やりきれなくて悲しい。そしてファンとスターの関係を改めて考えてしまうのだっだ。。。

2019.01.03@Cinema City朗豪坊

翠絲(トレイシー)

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姜皓文(フィリップ・キョン)、惠英紅(カラ・ワイ)、呉肇軒(ン・シウヒン)、余香凝(ジェニファー・ユー)、顧定軒(ゼノ・クー)、周祉君(アーロン・チョウ)、葛民輝(エリック・コット)、陳蕾、岑珈其、黄河、袁富華(ベン・ユエン) 李駿碩(ジュン・リー):監督 2018年

佟大雄(姜皓文)は、ある夜、ロンドンにいる学生時代の友人・高正が亡くなったという電話を受ける。大雄はもう一人の友人・池俊(葛民輝)と共に高正の遺骨を迎えに行くと、高正の夫だという邦(黄河)という男性が遺骨を抱えてやってきた。高正と邦はロンドンで結婚していたという。驚く池俊。しかし大雄は、長い間心にしまっていた高正への思いと共に、長年悩んでいる自らの性について改めて向き合うことになった。

男くさい姜皓文がトランスジェンダー役を演じたことは驚きが大きいが、脇役も素晴らしい。なんとなく気づいているふうな妻・安宜を演じる惠英紅がついに女装した夫から離婚を切り出された時の取り乱し具合や、息子・立賢(呉肇軒)が普段はLGBTに理解を示しているのに父の女装は受け入れ難かったり、少年時代の大雄が初めて仕事についた茶樓で自分は女性なのだと言う元粤劇の花旦で年上の同僚・打鈴哥(袁富華)の苦悩と化粧し美しく着飾って大雄らとバーに繰り出した時の喜びなど、脇を固める人々のセリフや表情が秀逸。

離婚して女性となり生き生きしている翠絲とは対照的に、妻の安宜の「仕方がない」という思いに包まれている。自らを偽ってきた翠絲はその時間だけ苦しんでおり、真実を知った安宜の心はいつ癒えるのだろうかと思うと心が痛い。

トランスジェンダーを扱った映画というと、かつて許鞍華(アン・ホイ)が撮った短編《我的路》(2012年)を思い出す。夫(呉鎮宇)は週末に女装していたが、妻に知られ別居しているという設定。夫がいつからトランスジェンダーに悩んでいたのか、息子がいるが父に対してどういう感情なのかも描かれてはいない。トランスジェンダーの友人たちが登場し、主人公を支えているのが分かる。怒り悲しんでいた妻は最後には夫の術後に病室を訪れ穏やかな顔を見せる。夫も軽やかな足取りで歩いていく。短編だったこともあり、物語は一部を切り取って簡潔に描かれていて、それぞれの心に深くは切り込めないでいた印象だった。《翠絲》には物語としての起承転結があり、周囲の人々との関係性や複雑な感情を丁寧に描いて、《我的路》では不満に感じていた部分も解消してくれている。

李駿碩はこの作品が初の長編だが、奇をてらったりすることなく、骨太な印象を受けた。

2019.01.03@百老匯電影中心

武林怪獸

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古天樂(ルイス・クー)、周冬雨(チョウ・ドンユィ)、陳學冬(チーニー・チェン)、包貝爾(バオ・ベイアル)、郭碧婷(クォ・ビーティン)、呉樾(ウー・ユエ)、方中信(アレックス・フォン) 
劉偉強(アンドリュー・ラウ):監督 2019年

東廠督主の孫玉鶴(方中信)は、珍獣・招財を手懐け殺人器にするように錦衣衛の封四海(古天樂)に命じた。一見凶暴な珍獣も実は善良な心を持っており、殺人の道具にするを忍なく思った封四海は珍獣を解放し、投獄されている冷冰冰(郭碧婷)と共に逃亡するが封四海だけが捉えられてしまう。孫玉鶴はさらに珍獣の捕獲も命じたていた。一方、冷冰冰は義軍の甄劍(陳學冬)とその師妹・熊嬌嬌(周冬雨)らと朝廷の金を奪おうと画策していた・・・

劉偉強、どうしちゃったんでしょうか??子供だましな珍獣と古天樂と郭碧婷のクサイお芝居。意外に出番の多い方中信が猫なで声で頑張っていて、こういう役もいけるのかもとは思うが、いかんせんお話が。。。。1月3日初日の上映回数から怪しいと予想はしていたが、トホホです。

2019.01.03@Cinema City朗豪坊

你好、之華

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周迅(ジョウ・シュン)、秦昊(チン・ハオ)、杜江、張子楓、鄭恩熙、邊天揚、吳彥姝(ウー・イエンシュー)、胡歌(フー・ゴー) 
岩井俊二:監督 2018年

亡くなった姉・之南の代わりに同窓会に出席した之華(周迅)は、かつて憧れていた尹川(秦昊)に再会するが、尹川は之華を之南だと思っており、急ぎ帰宅しようとする之華に自分の名刺を渡した。之華は之南の名を使って尹川に手紙を出した。

岩井俊二の映画は《スワロウテイル》と《ヴァンパイア》の2作品しか観たことがないのだが、どちらかというと苦手だし、すすんで観ようと言う気にはならないのだが、周迅が気になるので見ることにした。中国で撮影されているのに、全体に日本映画のような雰囲気だった。選ばれた(写された)風景や登場人物の衣装なども非常に日本っぽかった。

この映画でも観客はそれなりに入っている。《比悲傷更悲傷的故事》といい、この《你好、之華》といい、やはり香港人の好みも変わってきているのかもしれない。

2018.12.31@百老匯電影中心

比悲傷更悲傷的故事(悲しみより、もっと悲しい物語)

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劉以豪(ジャスパー・リュウ)、陳意涵(アイビー・チェン)、張書豪(チャン・シューハオ)、陳庭妮(アニー・チェン)、A-Lin 林孝謙(ギャビン・リン):監督 2018年

クォン・サンウ主演の韓国映画《悲しみよりももっと悲しい物語》のリメイク。 歌手のA-Linは、偶然に聞いたデモテープの作詞をしたクリームという人に自分の曲の作詞を頼もうと考え、彼女を知るという人物を訪ねた。その曲の作曲はK(劉以豪)、作詞はクリーム(陳意涵)。ともに両親を亡くした2人の10年にわたる物語。

元は韓国映画と聞いて、なるほどと思うが、これはやられましたわ。これで終わると思った後がいけない。ボロボロです。 香港でも結構入っているらしく、香港人の好みも変わったのかと思ったのだが、観終わった後の港女が「なんで10年も黙っているの?その間に結婚できるるわよね」というのを聞いて、やっぱりまだまだだと思うのだった。

2018.12.30@百老匯The one

葉問外傳:張天志(イップ・マン外伝 マスターZ)

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張晉(マックス・チャン)、柳岩(リウ・イエン)、鄭嘉穎(ケヴィン・チェン)、周秀娜(クリッシー・チョウ)、釋彥能(シー・イェンノン)、譚耀文(パトリック・タム)、楊紫瓊(ミッシェル・ヨー)、トニー・ジャーデイヴ・バウティスタ、元華(ユン・ワー)、姜皓文(フィリップ・キョン) 
袁和平(ユエン・ウーピン):監督 2018年

葉問と戦いに敗れた張天志(張晉)は、武館をたたみ小さな雑貨屋を営み息子と2人暮らしていた。趙明茱(柳岩)は、薬物に手を出し借金がたまり曹世傑(鄭嘉穎)に軟禁されていた娜娜(周秀娜)を救い出そうと大立ち回りを繰り広げた。通りかかった張天志は女性2人が荒くれたちに襲われているのを見て加勢、曹世傑らを叩きのめしてしまう。騒動を聞きつけた警官たちがやってきて全員が連行されるが、警察上層部と通じている曹世傑、老舗クラブ「金巴」の経営者・趙金虎(釋彥能)の妹である趙明茱と友人の娜娜は直ぐに解放されてしまう。何の後ろ盾もない張天志だけが残された。ようやく解放された張天志は息子の待つ家に急いで帰2人はスーツに着替えてレストランに向かったが、店は既に閉まっていた。実はこの日は息子の誕生日だった。。

甄子丹(ドニー・イエン)の《葉問3》(イップ・マン 継承)で登場した張天志を主役にしたスピンアウト作品。 陽か陰かというと陰の要素が強い張晉が魅力的に見えるのは、やはり《一代宗師》(グランド・マスター)や《葉問3》の敵役。《張天志》では子連れのダークヒーロー的な展開を期待をしたが、やはり良い人になっていて少し残念。 鄭嘉穎や譚耀文は観たままの役、釋彥能がいい人役なのは珍しいかもしれない。楊紫瓊と張晉の闘いは嬉しい限り。新しさはないのだが、懐かしい感じの香港映画になっていて、安心して観ていられる。

2018.12.30@百老匯The one
2019.02.19@新宿武蔵野館