姜皓文(フィリップ・キョン)、惠英紅(カラ・ワイ)、呉肇軒(ン・シウヒン)、余香凝(ジェニファー・ユー)、顧定軒(ゼノ・クー)、周祉君(アーロン・チョウ)、葛民輝(エリック・コット)、陳蕾、岑珈其、黄河、袁富華(ベン・ユエン) 李駿碩(ジュン・リー):監督 2018年
佟大雄(姜皓文)は、ある夜、ロンドンにいる学生時代の友人・高正が亡くなったという電話を受ける。大雄はもう一人の友人・池俊(葛民輝)と共に高正の遺骨を迎えに行くと、高正の夫だという邦(黄河)という男性が遺骨を抱えてやってきた。高正と邦はロンドンで結婚していたという。驚く池俊。しかし大雄は、長い間心にしまっていた高正への思いと共に、長年悩んでいる自らの性について改めて向き合うことになった。
男くさい姜皓文がトランスジェンダー役を演じたことは驚きが大きいが、脇役も素晴らしい。なんとなく気づいているふうな妻・安宜を演じる惠英紅がついに女装した夫から離婚を切り出された時の取り乱し具合や、息子・立賢(呉肇軒)が普段はLGBTに理解を示しているのに父の女装は受け入れ難かったり、少年時代の大雄が初めて仕事についた茶樓で自分は女性なのだと言う元粤劇の花旦で年上の同僚・打鈴哥(袁富華)の苦悩と化粧し美しく着飾って大雄らとバーに繰り出した時の喜びなど、脇を固める人々のセリフや表情が秀逸。
離婚して女性となり生き生きしている翠絲とは対照的に、妻の安宜の「仕方がない」という思いに包まれている。自らを偽ってきた翠絲はその時間だけ苦しんでおり、真実を知った安宜の心はいつ癒えるのだろうかと思うと心が痛い。
トランスジェンダーを扱った映画というと、かつて許鞍華(アン・ホイ)が撮った短編《我的路》(2012年)を思い出す。夫(呉鎮宇)は週末に女装していたが、妻に知られ別居しているという設定。夫がいつからトランスジェンダーに悩んでいたのか、息子がいるが父に対してどういう感情なのかも描かれてはいない。トランスジェンダーの友人たちが登場し、主人公を支えているのが分かる。怒り悲しんでいた妻は最後には夫の術後に病室を訪れ穏やかな顔を見せる。夫も軽やかな足取りで歩いていく。短編だったこともあり、物語は一部を切り取って簡潔に描かれていて、それぞれの心に深くは切り込めないでいた印象だった。《翠絲》には物語としての起承転結があり、周囲の人々との関係性や複雑な感情を丁寧に描いて、《我的路》では不満に感じていた部分も解消してくれている。
李駿碩はこの作品が初の長編だが、奇をてらったりすることなく、骨太な印象を受けた。
2019.01.03@百老匯電影中心